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2006年11月19日 (日)

お仕置き放獣

捕獲したクマをその後どうするのか。普通はそのまま問答無用で射殺するわけですが、どうも調べるにそろそろクマの数には限りがあることが判り、むやみに殺しまくっていると何れ野生のクマの絶滅という悲しい現実が待っています。このまま捕獲即駆除という図式が続けば、過去に同じような悲しい運命を辿ったニホンオオカミの例を挙げるまでもなく、近い将来そういう事態になってしまわないとも限りません。

そこで捕獲したクマに強力なカプサイシン(唐辛子エキス)入りスプレーを吹きかけたりして脅し、人は恐い生きものであることを学習させ、その後に山の奥地へ連れて行って放すというお仕置き放獣(または奥山放獣)が行われるケースも増えてきました。クマに人や人の住む里は恐いのでもう懲り懲り~と思わせることで、彼らが人の生活圏に出てくることを抑制し、人との無用な接触を断つという試みです。

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環境省が尾瀬で使用しているクマ捕獲用の檻。ドラム缶をつなぎ合わせて作られています。

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こちらはより頑丈なヒグマ用。写真は実際に知床で使用されているもの。

しかし、奥山放獣と言う発想自体、元々はアメリカやカナダなど国土が広く、尚かつ人の生活圏から離れた地域がある国での話しです。果たしてこの狭い日本において、奥山と呼べるような地域があるのか疑問との声も聞かれます。

それにクマが皆一様に凶暴であったり、または学習能力の低い脳天気な個体であったりと言うことは考えられず、基本的に生きものである以上それなりに個体差があるわけで、お仕置きを恐いと思えばもう二度と山を下りないかもしれませんが、懲りなければ何度でも戻ってくる..食べるものが乏しくなれば必然的にそうなる..可能性もあり、そうなると最終的には駆除されることになります。

岩手の例では、一度捕獲されてお仕置きを受けた個体は、餌を探して人里に出てくることはあっても、なかなか二度目の捕獲には至らないそうです。人里が危険という認識ではなく、捕獲檻が危険であるということを学習してしまうわけで、そうなると再捕獲は難しくなり、結局射殺による駆除という手段に至ってしまいます。

さらに最近ではお仕置き放獣そのものに懐疑的な意見を提起している人もいます。先日の記事で長野の再捕獲率は12%程度、それも3歳未満の若い個体に多いと書きましたが、中央アルプスを活動拠点としている写真家の宮崎学氏によれば、一度でもお仕置きを受けた個体は人に対して恐れを抱くと同時に、何らかの恨みを持つ個体がいるのではないかと考えられるとのことです。実際に氏が人里付近に仕掛けた無人撮影装置にちょっかいを出してくるクマは、イヤータグ等を装着した個体に多く見られ、それはつまり一度は人の手に落ちたことのあるクマと言えるわけです。

過去にお仕置きされた経験を持つクマが、人と偶然出くわした際に過去の忌まわしい記憶の元で人を襲ってしまう。確かにあながち全くないとは言い切れないものがありますね。実際、手負いグマの逆襲話は昔のマタギや猟師の一つ話として事欠きませんから。

そう言った意味で、宮崎学氏の公開しているブログ「ツキノワグマ事件簿」は、非常に興味深く見ることができます。

但し、冷静に考えて野生動物が恨みつらみから人を襲うことは考えられないという意見も当然あります。恨みやつらみで仕返しをするのは人くらいのものであって、クマが人を襲う動機としては弱すぎる..襲うリスクに対して得られるメリットが少ない..というものです。恨みつらみ動機説は、クマを擬人化している点で無理があるというわけですね。

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写真は奥山調査に必携の、強力カプサイシン入りクマ除けスプレー(カウンターアソルト)。クマ除けと聞いて虫除けを連想、山に入る前に自分の体に噴射した人がいるとかいないとか..と言う冗談はさておき(笑)、私もクマとのやむを得ない接触時の護身用に携行していますが、実際どの程度の効果があるのかは未知数です。

さらに言えば効果自体にも有効期限があるらしく、私が持っている何本かは数年前にアラスカから持ち帰ったもの..9.11テロ以降、いかなる形でも航空機には持込不可です..なので、もしかしたら既に効力はないかもしれませんね。いざ噴射してみて、単なる辛子調味料に成り下がってないことを祈るばかりです(苦笑)。

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コメント

どもども☆おひさしぶりです。
先日小グマの赤ちゃんが捕獲されたショックで心臓麻痺を起こしてショック死したというニュースを聞きました。
親からはぐれて、わけもわからず人里に下りてきてしまい、わけもわからず捕獲されそうになったのでとりあえず逃げ回ったが、結局捕まり恐怖でショック死!!
確かに先々のことを考えると、人を襲ったかもしれませんが、あまりにかわいそうな運命だなと思いました。
ではでは☆

クマのショック死と言うのはあまり聞かない話ですね。ピグミーマーモセットみたいな小さいほ乳類は、大型の生きものに比べて心拍数が高いので、人に捕まっただけで死んでしまうという例はあるようですが。何れにせよ子グマまで駆除するケースは希なので、不慮の事故と言えますね。

人事とは思えません。
何かで読んだことがありますが、アラスカでキャンプをする時に
その人は、燃えるものはもちろん、缶詰の空き缶も燃やし、真っ黒になったものを持って帰る。
これは、熊に対して、人間の持ち込んだ食べ物の匂いが残らない様にする配慮だ。
と書いてありました。
また、今月のBE-PALにも書いてありますが、ベアスプレイは風向きによって自分にかかる可能性もあるし、冷静に熊にかけるのは難しい・・・なんて事も書いてありました。

私は卓上理論で現場を知らないので、何ともいえませんが、
人と野生動物が共存共栄することはとても難しいデスネ。
人もそれぞれ性格が違うように、熊もみんな違うと思います。

実際に私以外のKUMAに遭遇した、また、今後も遭遇するBigDipperさんはくれぐれも十分に注意してくださいね。

実際にフィールドでツキノワグマに遭えば判りますが、皆が思っているほどは大きくも恐くもないものですよ。時々100kgオーバークラスの個体もいますが、大概は自分よりは小さいヤツばかりです。突然予期せずバッタリ出くわすので、皆驚いてパニックになってしまう..数百キロの巨大凶暴グマと対峙したと思いこんでしまう..のが数ある事故の原因なので、重要なのは冷静に対処することですね。

ただ、ツキノワグマとヒグマを同列に扱ってはいけません。ヒグマは自分よりも大きいので、格闘したらまず勝つのは難しい(笑)。さらに北米の海岸地帯のブラウンベアともなれば、それはもう..

動物は嫌なことをされたの、ちゃんと覚えていますよ。
昔とある大学で小型の牛を飼育していて、
学生たちが結構いじめて遊んでいたのです。
ある日それは、学生の背中めがけて角を突き立てたのです。
一般的には温順とされる品種の牛です。
恨みというか、敵と認識するんじゃないでしょうか。

> 動物は嫌なことをされたの、ちゃんと覚えていますよ。

うちの犬も小さいとき下の倅に水鉄砲の的にされていたことを憶えていて、彼が水道の蛇口に近づくだけで小屋に逃げ込みます(笑)。

> 恨みというか、敵と認識するんじゃないでしょうか。

個体差はあるにせよ、当然そういう認識はするでしょうね。ただ、「xxに虐められたからいつかxxに仕返ししてやる」と、わざわざ危険を冒してまで里に出てきて人を襲うかと言えば、それは無い話だろうと。

恐らく動物が人を襲うとすれば、それはあくまで緊急避難的な要素が強い場合と推測できます。

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