カテゴリー「本」の10件の記事

2009年2月21日 (土)

空と森の王者

山﨑亨氏の著書「空と森の王者イ○ワシとクマタカ(サンライズ出版)」。本書は「びわ湖の森の生き物シリーズ(同社)」と銘打った郷土本の一つにあたり、イ○ワシ・クマタカ両種の生態を中心に、氏が長年フィールドとしてきた琵琶湖周辺の自然環境にも触れられています。

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山崎氏は国の内外を問わず、希少猛禽類の研究と保護に長年取り組んでこられ、もちろん現在も最前線で活躍中の猛禽類研究者です。かくいう私も籍を置く研究会の設立に遁走し、初代事務局長を務められ、長らく会の運営に尽力されてきた大先輩でもあります。近年はアジア地域での活動に軸足を置き、インドネシアのジャワクマタカなど絶滅危惧種の研究・保護活動を、現地の研究者たちと積極的に行っています。

本書を読んでもらうことで、イ○ワシ・クマタカ両種の魅力に科学的..でも平易な言葉で書かれているので難しくない..はに迫れ、尚かつその存在の貴重さの意味を知ることがきます。同時に猛禽類の生態に詳しい氏の、長きにわたるイ○ワシ・クマタカの研究・保護活動の一端を垣間見ることができ、ひいては我々の行っている活動そのものへの理解を深めてもらうことができるはずです。

ひとたびイ○ワシやクマタカの魅力に取り憑かれると、熱病にうなされたかのように山や森へ日参することになります。風の精の如く大空に舞い、忍者の如く森に溶け込む彼らの姿を探し求め、終日その姿を追い、可能であれば映像に記録していく。食物連鎖の頂点に立つアンブレラ種の生態に迫ること、それは野生の深淵に立つ生きものの厳しさに触れ、そして知ること。

しかしそれは同時に、現在の彼らが置かれた日本の山や森の環境変化の深刻さを知ることでもあり、ただ楽しくその姿を双眼鏡で眺め、カメラで追いかけるだけではすまないという現実を、目を背けることなく直視しなければならないことを意味します。

以前に紹介したこちらとも併せ、是非ご一読ください。

2008年9月 4日 (木)

20世紀少年

子供の頃に思い描いた21世紀は、妙に丸っこい建造物や円筒形のビル、それに透明なチューブ状のパイプの中をタイヤのない車が走っていたように思います。街を歩けばそこら中にロボットがいて、宇宙へも自由自在に行き来していると考えていました。が、当たり前ですが21世紀は20世紀の延長に過ぎず、そうそう急に世の中が変化することなどあるわけも無く、ごく普通に時は流れていってます。

遅まきながら20世紀少年にはまっています。何故か家の書庫に21世紀少年があって、そちらは以前に読んでいてそれっきりだったのですが、漫画の原作を忠実に再現してあるという上映中の映画を観るために、予習を兼ねて倅のともだち..って書くとあの”ともだち”っぽいですね(笑)..から全巻借りて読んでいる次第です。PCでビデオデータのレンダリング中などの空き時間に続きを読み始めるのですが、PCの処理が終わっても手放せないほどはまってしまい、仕事がはかどらないのは困りものです(苦笑)。

登場人物群と世代的に共感しうるものがあると書くと歳がばれますが、確かに大阪万博は憧れでしたね。連れてってくれと親にせがんでも、実家は商売をしていたのでそれもかなわず、後日万博に行ってきた友達の話を羨ましく聞いていた記憶があります。秘密基地にしても、私らの場合は近所にあった防空壕の跡を秘密基地として遊んでおり、やはり同じように様々な「親に知られてはいけないもの」を隠していましたし、その他、東京ボンバーズや中山律子さんも懐かしいですねぇ。

子供の頃、21世紀はとてつもなく未来のような気がしていましたが、実際は30年程度の時差しか無く、自分が生きている内に未来の姿を見られるのではないかという期待感の元に、未来を想像していたんだと思います。そういう意味では今から22世紀の未来を想像しろと言われても、それが自分たちの倅の代であっても見ることはかなわないわけで、やはり難しいように思います。なので遠いようでいて割と近かった21世紀という未来を空想できた我々の世代は、それなりに幸せだったのかもしれませんね。

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赤城高原でもこの一週間くらいの間に大分ススキの穂が開きました。
Caplio R6

前述したとおり、私の子供の頃は防空壕の跡地に勝手に入り込んで秘密基地にしていたので、さすがに萱..ススキのこと..を組んで基地を作ることまでは考えませんでしたね。ちなみに件の防空壕ですが、私らがかくれんぼで使っていた際、夕方になりまだそこに隠れていた友達をほっぽらかして皆帰ってしまい、隠れていた友達が家に帰らず..そいつは中で寝てしまっていた(苦笑)..大騒ぎなったことがあります。結果その防空壕は周囲を鉄線で囲まれ、立ち入り禁止になってしまった苦い思い出があります。今はもうその防空壕そのものが無くなっていますが、今回20世紀少年を読むにつけ、その頃のことが懐かしく思い出されますね。

2007年12月20日 (木)

とりぱん

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今日の北部山沿いは快晴無風..

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などと油断していたら、通り雨ならぬ通り雪に降られました。

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朝来たときにはなかったノウサギの足跡。陽の高いうちから大胆なヤツがいるもんだと思いつつ、そういう呑気なヤツがいることで、食物連鎖のより上位にいる捕食者に餌が供給されるというわけです。

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女房が読んでゲラゲラ笑っていたので、私も借りて読みましたが、確かに大笑いしました(笑)。我が家にも餌台があるので、ほぼ100%以心伝心、そうそう、そうなんだよねぇ..てな感じで、久しぶりに漫画で心底笑わせてもらいました。週刊の青年漫画雑誌..って言うのかな?..に連載されているらしいのですが、今時よくぞこういうネタを採用したものだと、編集部には感心することしきり。現在4巻まで出ているようなので、早々に追加注文し、また大笑いしなくては(笑)。

しかしこの作者、恐ろしいほど我が女房とセンスというか自然観が似ています。最初は女房..彼女は学生時代は漫研所属..が書いたのかと思ったほどですから(笑)。

EOS40D(EF28-300/3.5-5.6L IS)、GR DIGITAL

2007年9月 3日 (月)

狗鷲二書

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本日紹介の書籍は、我々の大先輩であり仲間でもある関山房兵氏の著書「イ○ワシの四季(文一総合出版)」です。伏せ字にしてあるのは知る人ぞ知る訳ありなものでして(笑)、取りあえず正式な書名は写真でご確認ください。
Caplio R6

同書は05年に河北新報に連載された記事をまとめたもので、岩手県の北上高地における関山さんのフィールド記録でもあります。氏は40年近くイヌ○シを追いかけているフィールド研究者で、我々の所属する研究会の全国調査の折には色々とアドバイスをもらったりしています。北上高地におけるイヌ○シの生態や、現在彼らの置かれている状況、そして諸問題について、新聞の連載と言うこともあって、文体は比較的柔らかくドキュメンタリータッチになってるので、小難しい話が嫌いな人にも分かり易く入っていけるはずです。

話の主役であるニホンイ○ワシ(英名:Golden Eagle)は、国内に約300羽程度..イ○ワシ研究会の繁殖状況調査推計に基づく数字だが、この場では取りあえずこのように記しておく..しか生息していない貴重な猛禽類で、翼を広げると2m(畳一枚分!)にもなる大型の山ワシです。レッドデータブック絶滅危惧IB類(近い将来に野生下での絶滅の危険性が高い種)にも指定され、その広大な生息域を含めた抜本的な保全対策が望まれています。

イヌ○シは漢字の当て字で狗鷲と書きます。狗は天狗の一字から来ており、古来より天狗伝説の一翼を担ってきたのがイ○ワシである証になります。山奥に棲み、時折人里に出てきては人をさらっていくいわゆる「天狗の神隠し」は、イ○ワシがサルを掴んで飛ぶ姿からきたものとも言われています。そんな天狗の大団扇の如き翼を持つ大型のワシが、里からそう遠くない山や森でひっそりと暮らしていることを、本書で是非知って欲しいと思います。そして絶滅に瀕している同種を守っていくには、個体自体の保護もさることながら、彼らの生息域そのものを保全していけるような仕組みが大切であると言うことを、皆さんに理解してもらえたらと思います。

かく言う私も、学生時代から数えて四半世紀以上同種を追い続けており、イ○ワシを見ること、調べること、撮ること、そして守ることをライフワークとしており、今だにその季節がやって来ると、天狗の如く飽きもせずに山にこもる日々が続いています。そして生来のワシ好きが高じて、冬になると北の方に沢山やってくるさらに大型の海ワシまで追いかけるようになりました(笑)。

ついでにもう一冊。もっと本格的で専門的な内容でイヌ○シに迫ってみたい方は、これまたその道の権威であるJeff Watson氏(英)の「The Golden Eagle」がお薦めです。スコットランドのハイランド地方を舞台にした氏のイ○ワシの生態記録は、我々のようなイヌ○シ関係者のバイブルのような本で、私のは十年以上前に神田の洋書専門店で発掘したものです。当時は日本語の専門書など無かったので、辞書を片手に眉間にしわを寄せながら読みふけった記憶があります。いや英語は苦手で..とおっしゃる方には朗報で、文一総合出版から同書の和訳版「イヌ○シの生態と保全」が昨年出版されているので、そちらをご覧ください。

2006年9月 4日 (月)

山わたる風

最初のページをめくると、いきなりクマの冬眠穴から外を覗いたシーンで始まります。このカットがこの本の持つ雰囲気を全て作っていると感じられる素晴らしい写真です。

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「山わたる風(柏艪舎発行)」は、北海道のバックカントリー(原野)をテーマにした写文集形式の単行本です。内容は朝日新聞北海道版に連載された同名のエッセイの再構成で、著者は北海道在住の伊藤健次氏。その名を聞いて「ああ、あの人か」と判る人は、まだそれほど多くはないでしょう。

伊藤氏は若くして日高山脈冬期単独縦走などをこなすいわゆるホンモノの山屋で、よく雑誌で目にするようなただきれいな景色を撮るだけの観光写真家とは、その経歴からして一線を画しています。また、ザックに出来る限りの食料と機材を詰め込んで、可能な限り自然の懐に踏み込んでいくというその撮影スタイルも、どこか星野道夫氏と同じような匂いを感じさせますね。写真に添えられた文章ににじみ出る微妙な味わいも、一日一夕で書けるものではないので、それすらご本人の才のうちなのでしょう。

私が伊藤氏を最初に知ったのは、私自身が渡道目的の一つとしているある生きもの棲息状況を探るべく、道内の山の状況を知るために斜里の本屋で買った山のガイド本が最初でした。その時は失礼ながら著者はただの山屋さんなんだなくらいにしか思っていなかったのですが、その後何年かしてメジャーなアウトドア雑誌に大雪のクマの写真が載ったのを見て、「日本にもこんな風にクマを撮れる人がいるんだな」と感心したのを憶えています。

日本でクマ..ここではヒグマを指しています..の写真と言えば、知床の某川でサケやマスを捕まえて食べるステレオタイプな写真が大半ですが、その時見た氏の写真のクマは、小雪の降る中静かに座っていたのです。写真は瞬間の一シーンに過ぎませんから実際はそうでないかもしれませんが、確かにその時のクマは「静かに座っている」ように見えたのです。野生動物、とりわけクマを1枚の写真に表現する時、生きものですから当然動きのあるシーンを狙いがちです。しかし、そのたった1枚で静寂からその後の冬ごもりまでを連想させた氏の写真は、なかなか感性鋭いものだと感じたものです。

伊藤氏がテーマに据えているのは北海道の原生自然ですが、北海道をテーマにした写真集を見ていて共通に感じるのは、「どこかで見た眺めだなぁ」という感覚です。自分自身がその場に立って見たことがあるというのもありますが、次々に発刊される写真集の類どれをとってもそれほど同じようなシーンばかりだというのも事実です。話は少し逸れますが、例えばあたかも世界自然遺産登録ブームに乗るかのような、知床などとタイトルに付こうものならもう言わずもがなですね。全くの私見ですが、今のところ知床をテーマにしていて本物と呼べるような内容の写真集は一冊もありません。昔から沢山の写真家が足を運びつつも、誰一人としてモノに出来ていない場所が知床なのです。

車を乗り付け道路脇に三脚を立て、目の前の美しいシーンに感動しながらそれをカメラに収める。それ自体別に悪いことではないですが、巻末や帯に踊る「自然を大切にしましょう」的な薄っぺらなメッセージには、どこか空虚感や偽善的なものを感じてしまう..私の感覚がひねくれているのもある(笑)..のです。その言葉の意味ほどに内容に重さを感じないのですね。自然を単なる風景として周りから漫然と眺めているだけでは、自然や野生が内包する本質に迫るのは難しいということです。

そう言った観光写真と伊藤氏の写真の異なる点は、自身の脚で大地を踏み歩きそこに到達した者でないと撮れないオリジナルのシーンにあります。周りからだけでなく内からの視点も大事にしていて、尚かつそれを遂行するだけの技術と体力、そしてそれらに裏打ちされた経験の豊富さ。それらを併せ持ついわゆるホンモノだけに許される世界感があるという点です。冒頭で紹介した、クマの冬眠穴を外からでなく内から撮るという視点、そして何より「地に足の着いた北海道の自然を撮りたい」と言う氏の言葉がそれを物語っていますね。

星野道夫氏以降、増産されるのは観光写真家ばかりで、なかなか表現者たるホンモノの写真家が出てきません..あくまで私見です..が、伊藤健次氏には次代の自然写真家としてその活躍に期待しております。

最後に惜しむらくは何故この本がこのサイズ(46版という文庫本よりやや大きい程度)なのかということ。出来ればもっと大きなサイズで、しっかりとした写真集として発行して欲しかったと思います。

2006年5月26日 (金)

古本と電子部品

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無人撮影装置の壊れたパーツを入手するため久々に上京。電子部品と言えばアキバが定番ですね。何やら怪しげな雰囲気が漂う人種の波を泳ぐように、部品屋を何店かハシゴして予定していたパーツを入手した後、アングラっぽいショップでPC強化用のグラフィックボードも物色してきました。ついでにビデオ関連の業務用機材ショップにも立ち寄り、音響関連のアクセサリーも入手しました。
GR DIGITAL 1/203 F5.6 ISO64

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午後は上京巡回コースとなっている神田まで足を延ばし、行きつけの古本屋を見て回りましたが、偶然立ち寄った某店にて10数年来探していたとある本を見付け入手することができました。以前から手元にあるのは友人から借りているものですが、これでようやく自分の所有物とすることができました。初版の発行年度は昭和48年ですが、訳として発表されたのは同41年とのことで、原作著作について言えばもっと古いことになります。著作者であるシートン・ゴードン(故人)と言えば、その筋ではある意味神様のような人で、この分野で彼を知らなければそいつは間違いなくモグリですね。日本の研究書では類似本は無かったため(今でもないが)、最初に借りて読んだ時はワクワクしながらページを捲ったのを憶えています。これから久しぶりに読み返してみて、出来ればあの時の気持ちに立ち返ってみようと思います。

2005年11月 6日 (日)

驚異の大地アフリカ

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副題に「空から眺めた地球の素顔」とあることから判るとおり、空撮によるアフリカ大陸の様々な場所の写真集で、発行はナショナル・ジオグラフィックです。

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2005年11月 4日 (金)

鳥たちの旅

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渡り鳥たちはどこからやって来るのか、どういうルートを辿ってくるのか、何故移動する必要があるのか。本書はそんな疑問を解明する一つの方法論を紹介した一冊です。簡単に紹介すれば、発信器を背負った鳥たちを人工衛星で追跡するという壮大なる調査・研究の話で、著者は日本鳥学会会長でもある東大教授の樋口広芳氏です。

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2005年9月 6日 (火)

風の国・ペンギンの島

20050906 ご存じの通りペンギンという鳥はなかなかにメジャーな生き物で、その愛嬌のある容姿や振る舞いで水族館や動物園でも不動の人気を誇ります(イヌ○シは知らなくともペンギンを知らないという人はいないでしょう)。しかしそのひょうきんなイメージとは裏腹に、実際の棲息地たるや大凡人間の生活圏からはかけ離れた実に過酷な自然環境下となります。荒涼たる極地の原野や荒波立つ断崖、安直な生き物を寄せ付けない厳しい南極大陸等々..本書を読むとその辺りが手に取るように判ります。著者はオルカやイルカ、クジラ等の海棲哺乳類に関する研究者・ジャーナリストとして有名な水口博也氏で、氏の経験豊かな考察に基づいた紀行文は、日本にいながら亜南極を一緒に旅するように楽しめます。

蛇足ながら、文頭にも書いたようなペンギンの愛くるしさのようなイメージを求めて本書を読むことはお奨めしません。あくまでもありのままのペンギンの姿を知りたい方にお奨めします。私は基本的に北方志向なので極地といえば極北ですが、本書を読んだ影響で現在頭の中でどうやったら亜南極に辿り着けるものかと思案中です。困ったもんだ(笑)。

2005年9月 3日 (土)

原野の鷲鷹

20050903 北海道の幌延在住の写真家、富士本寿彦氏の写真集です。氏は道北のサロベツ原野に棲息する野生動物、とりわけテンやユキウサギ等の小さな哺乳類の生活史の記録では定評があり、私も以前から注目している写真家の一人です。本日紹介の写真集は、氏の一連のテーマであるサロベツ原野を中心に棲息・記録されたワシやタカをまとめた一冊です。

日本に棲むワシタカ類をまとめた写真集や図鑑は他にもいくつかありますが、この写真集で注目すべきはその全てをサロベツ原野という限られたエリア内で撮影している点ですね。数も普通種に較べれば少なく尚かつ棲息情報も限られた種が多いので、自ずから全国区で撮影されることが多いワシタカ類ですが、それを地域限定でまとめているのはさすがとしか言いようがありません。内容的にも単なる見栄えのする写真の羅列でなく、科学的視点でのカットも多数掲載されており、特にオジロワシやオオワシの羽衣の年齢別変化の記述辺りは観察する際の参考にもなります。

北海道で記録されているワシタカ24種中16種を記録しているサロベツの自然環境の豊かさ懐の深さ(とは言えそのサロベツでさえも環境破壊が進んでいると氏は嘆いておられますが)にも驚きますが、何より氏の観察者としての写真家としてのその技術の高さに感服します。